
今日は、hiyokoです。総合病院で薬剤師として勤務しています。
病院薬剤師として働いていると、「あれ?これ薬の副作用かな?」と思う症状に日々出会います。
そんな時に私たちが適切に行うべきなのが、「医薬品・医療機器等安全性情報報告制度」です。
この記事では、薬剤師が知っておくべき「制度の目的・仕組み」→「何を報告するのか」→「実際の報告手順」までをわかりやすく解説します。
医薬品医療機器等安全性情報報告制度とは
医薬品医療機器等安全性情報報告制度(以下、安全性情報報告制度)とは、薬の副作用や医療機器の不具合などの安全性情報を医療従事者から収集し、国が迅速な安全対策に繋げる仕組みのことです。
厚生労働省から委託された独立行政法人 医薬品医療機器総合機構(以下、PMDA)が運用しており、現場で働く薬剤師など、医療従事者の気づきを元に、全国の安全対策に繋げています。
制度の目的
医療従事者が副作用等を厚生労働省に直接報告することで、企業が把握していない副作用等を発見し、
- 副作用・不具合を早期に把握し、被害拡大を防ぐ
- 添付文書改訂や注意喚起につなげる
- 医薬品や医療機器をより安全に使用できるようにするなど
医薬品や医療機器を安全に使うための対策に繋げます。医療現場での1件の報告の積み重ねが、今後の医療を改善する大きな力になります。
薬剤師の報告が重視されている理由
薬剤師は薬歴・検査値・投与履歴を横断して把握できるため、副作用の兆候に最も早く気づける立場にあります。
- バイタルや検査値の変動に気づきやすい
- 医師看護師から情報を集約できる
- “薬の影響かどうか”を総合的に判断しやすい
また、副作用については、因果関係が明確ではない場合であっても、何らかの疑いがあれば報告して問題ありません。
報告対象になる情報の種類
副作用(医薬品)
以下の場合は積極的な報告が推奨されています。
- 重篤な副作用(死亡、入院延長、後遺症など)
- 既知でも重症度が高い例(例:肝障害、腎障害)
- 添付文書に記載のない未知の有害事象

一般用医薬品や要指導医薬品も対象だよ!
医療機器の不具合
医療機器の不具合については、看護師や、他職種からの相談を受けることが多いです。
- ポンプやシリンジの作動異常
- 破損・接続不良
- 使用中の誤作動・停止など
機器が原因で患者に影響があった場合は必ず報告します。
感染症(生物由来製品など)
滅多にないですが、以下の場合も報告が必要です。
- 医薬品や再生医療等製品を使用したことによる感染の疑い
- 血液製剤使用後の感染症の発現
誰が報告できる?薬剤師も直接報告可能
報告できるのは、医師・歯科医師・薬剤師・看護師などの医療従事者です。
医師の同意は不要
報告に医師の同意は必要なく、薬剤師の判断のみでPMDAに直接報告できます。
ただし、義務ではないものの、以下の理由で、院内での情報共有も推奨されています。
施設内の情報共有が推奨される理由
報告は薬剤師単独で出来ますが、院内で情報共有することで、
- 医師・看護師からの追加情報が得られる
- 医療安全管理部門と連携し、事例評価がスムーズになる
- 病院内の類似事例の把握につながる
などのメリットを得ることが出来ます。
報告までの流れ(薬剤師の実務目線)
ここからは、薬剤師の実務目線での、報告の流れをまとめていきます。
ステップ1:副作用の疑いを拾い上げる
薬剤師は診断は出来ません。しかし、報告については、副作用を確定する必要はなく、「これ、副作用かもしれないな」という“疑いレベル”で十分です。
- 発疹などの皮膚症状
- AST/ALT、Cr の急上昇
- 意識状態の変化
- 血圧・SpO₂ の低下
- 入院延長が必要な状態の悪化
薬剤との関連が薄く見えても、とりあえずメモしておくと、後から判断しやすくなります。
ステップ2:必要な情報を整理する
PMDA へ報告する前に、以下の情報を集めておきます。
- 投与薬剤名(製品名)
- 投与開始日・中止日
- 用量、投与経路、投与頻度
- 症状の発現日と経過
- 検査値の推移(肝腎機能、血算など)
- 既往歴・併用薬
- 他職種からの聴取内容
電子カルテを見ながらチェックリスト化しておくと効率的です。
ステップ3:PMDAオンラインフォームへ入力する
「医薬品・医療機器等安全性情報報告サイト」にアクセスし、Web 上で以下の項目を入力します。
- 患者背景(年齢・性別・体重など)
- 使用した医薬品と投与期間
- 有害事象の詳細
- 重篤度
- 医薬品との因果関係(不明でも問題なし)
- 経過と転帰
- 報告者情報
約 10〜15 分で完了します。また、報告書はPMDAのWEBサイトから印刷できる為、記入して、FAXや郵送、電子メールで提出することも可能です。
ステップ4:PMDAによる評価と安全対策へ反映
送信された情報は PMDA が確認し、メーカーへの指導や添付文書改訂、安全性情報の発出などに利用されます。
1施設からの情報が全国の医療機関の安全性向上に繋がります。
報告のポイント(病院薬剤師が押さえるべき点)
因果関係は不明でも報告してよい
因果関係がはっきりしなくても、「薬の影響かもしれない」と思った時点で報告することが推奨されています。
重篤度の判断に迷ったらどうする?
- 入院延長
- 医師の治療介入
- 症状の重度化
のいずれかがあれば“重篤”と考えてOKです。
迷った時は薬剤部内で共有し、他の薬剤師の意見も聞いた上で、早めに判断するようにしましょう。
写真・検査値の記録が評価を助ける
- 発疹の写真
- 検査値の時系列
- バイタルの推移
これらがあるとPMDAの評価が正確になります。電子カルテや院内の写真保存システムを活用しましょう。
よくある報告例(ケーススタディ)
ここでは、一般的な報告例を記載していきます。
ケース1:抗菌薬後の発疹
薬剤:AMPC
発現:投与 3 日目に全身紅斑
→典型例だが重症化リスクがあるため報告
ケース2:抗がん剤後の急性腎障害
薬剤:CDDP
発現:投与後、Cr の急上昇と尿量低下
→既知の副作用でも重篤なため報告
ケース3:医療機器のアラーム誤作動
患者へ薬剤投与中、シリンジポンプが突然停止
→患者への影響があったため報告
まとめ:薬剤師の1件の報告が未来の安全対策につながる
副作用報告は、“確定診断がついてから”行うものではありません。
薬剤師が日々の業務で気づく“小さな違和感”が、大きな安全対策につながります。
あなたの一件の報告が、患者さんの安全、そして日本の医療の質を底上げする力になります。
日々の業務も忙しい中ではありますが、積極的に行っていきましょう。
以上、hiyokoでした^^
以下の項目の試験対策としてまとめました。
日病薬病院薬学認定薬剤師認定試験 出題基準
Ⅰ.医療倫理と法令を順守する
Ⅰ-3:法令順守
●医薬品医療機器等安全性情報報告制度の仕組みと報告方法について理解している。
以下の資料を参考にしています。
・厚生労働省「医薬品・医療機器等安全性情報報告制度について」
・PMDA 独立行政法人 医薬品医療機器総合機構「医薬品医療機器等法に関する報告の制度について」「医薬関係者からの医薬品、医療機器、再生医療等製品、医薬部外品及び化粧品の副作用、感染症及び不具合報告の実施要領について」


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